ぱちっと弾けた夜営のその火を、ただ、見ていた。
 今日の殲滅区域は、女、子供が多かったなぁ……なんて考える。ただでさえ生きる時間の短い人間のそれを、手折ることのなんたる無慈悲。

       だから、ホムンクルスなんて嫌いなんだよ。

 チッ。と舌打ちをして、地下にいるであろう諸悪の根源を殺してやりたい衝動に駆られた。
 崩れた瓦礫の散乱するこの一面を、まるで他人事みたいに見てしまう。仰いだ先の澄んだ空には無数の星が光っていて、何故だが目頭が熱くなるのがわかった。



 顔を上げれば一人の男。北方司令部からこの前線に送られたらしく、その場で適当に編成された同じ隊の下士官。だから、名前は覚えてない。

「……あぁ」

 短い返事に、困った様に笑って隣へと腰を下ろす。
 国家錬金術師が投入されたとか、北部のブリッグズの話だとか、そんな話をしていた。南部はどうだと訊かれ、特に何処とも変わりはしないと答える。イシュヴァールでも、アエルゴでも、ドラクマでも、人が死ぬのは一緒なのだから。

「歩哨の時間だから行ってくる」

 立ち上がってそう告げると、今度は男が「あぁ」と短い返事をした。火の明かりで少しだけ見えたその顔には、疲労と共に違う何かが表れている。この場所にいる殆どの兵に見られる共通したその表情を、人は何と呼ぶのだろう。

「……

 振り返らずに、小さな溜息を吐いた。

「何でいつも先頭に立つ?死に急いでるみたいだ」

 背中で聞いた言葉への返事は、何が妥当だろうか。俺なら死なないから平気だろうとか、親父への忠誠心だとか      それは間違ってもありえないけれど。

「……せめて、周りの人間の盾くらいになら……」

 思わず出てきた言葉に息を飲む。何云ってんだ、俺。散々奪ってきた人間のそれを、今更。エンヴィーが聞いてたらきっと笑われる。だからは莫迦なんだって。慈悲の心?他者への愛?尊い犠牲?そんなことしたって、人間にはなれないんだよって、皮肉たっぷりで笑うんだ。

      いや、ただ、出世できるかなって」

 答えてすぐに歩き出した。男の顔は見ていない。

 遠くの空が、焔で朱く染まっていた。



    真夜中のイシュヴァール




100731